2011年11月2日水曜日

コーネル・ウェスト:”キング師は草場の陰で泣いている”

2011年8月25日付ニューヨークタイムズ紙に掲載されたコーネル・ウェストの「キング師は草場の陰で泣いている」(Dr. King Weeps From His Grave”)を訳してみました。(大竹秀子)



マーティン・ルーサー・キング・ジュニア師の記念碑が日曜にナショナルモールで除幕された。ミシシッピー州でのエメット・ティル殺害からちょうど56年目、仕事と自由を求めた歴史的なワシントン行進から48年目にあたった。原注:ハリケーン・アイリーン襲来のため、記念祝典は延期された。
いずれもアメリカの人種と民主主義の怒濤の歴史の記念碑的出来事であり、2008年のバラク・オバマの大統領選出を頂点とした公民権運動の紛れもない成功が、私たちの関心と高揚感をかきたてるのは当然だ。とはいえ私たちは、「アメリカの未来はすべてキング師の衝撃と影響にかかっている」というラバイ・エイブラハム・ジョシュア・ヘッセルの予言的な言葉から逃れられずにいる。
ラバイ・ヘッセルがこの言葉を口にしたのは、キング師の晩年で、白人の72パーセント、黒人の55パーセントがベトナム反戦と米国での貧困の根絶に向けたキング師の取り組みに反対していた時だった。民主的なアメリカを求めるキング師の夢は、彼自身が言ったように、「根強くはびこるレイシズム、貧困、軍国主義、物質主義」により「悪夢」と化していた。キング師はアメリカを「病んだ社会」と呼んだ。1968年、暗殺されなかったら、次の日曜には「アメリカはなぜ、地獄に落ちかねないか」という説教をする予定だった。


キング師はアメリカが地獄に落ちるべきだと考えていたわけではなかったが、経済的な不正義、文化の衰退、政治の麻痺により、そうなりかねないと考えていた。彼はアメリカ版ギボンのように、「アメリカ帝国衰亡史」を書くつもりはなかったが、勇敢で深い洞察力をもつキリスト教徒のブルースマンとして「4つの大惨事」に対決し、スタイルと愛を手に闘っていた。
軍国主義は、軍産複合体と国防国家を産み、国の優先順位と名声をゆがめるモラルを欠いた無人偵察機が無実の市民に爆弾を落としているように帝国の大惨事だ。企業メディア複合体と文化産業によって促進される物質主義は、コアな消費者の心をかたくなにし、市民となるべき人々の良心をあらす精神の大惨事だ。大衆の気晴らしといううまい仕掛けを使って、中毒に陥りつつ自分で治療もするナルシストの安っぽい魂の戯れが産まれる。
レイシズムは倫理の大惨事で、刑務所産業複合体においてもっともまざまざと表れているが、黒人とラティーノを狙い撃ちにするゲットー内での警察の監視は見えにくく一般に論じられずに終わっている。麻薬「戦争」という名を使った法の勝手気ままな利用は、法律学者のミシェル・アレキサンダーが言う「大量投獄という新しいジム・クロウ法」を生み出している。貧困は経済面での大惨事であり、貧乏な子供たち、高齢化した市民、働く人たちに無関心な貪欲な寡頭政治と強欲な金権政治家の権力と結びついている。
悲劇的なことだが、オバマ時代は予言者キング師の遺産をかなえられずにいる。急進的な民主的ビジョンを明確化し、自宅所有者、労働者、貧者のために住宅ローン救済、職の創出、教育・インフラ・住宅への投資で闘う代わりに、政府が私たちに与えるのは銀行救済、ウォール街の記録的利益と弱者を犠牲者にした巨大な予算削減だ。
トーク番組の司会者タビス・スマイリーと私が、反貧困全国ツアーで語ってきたように、最新の予算交渉は30年間にわたり行われてきた貧困と労働者に対する一方的で上位下達の戦争の最新局面にすぎない。市場の規制緩和という倫理的に破産した政策の名の下に減税が行われ、すでに社会的に無視され経済的に見捨てられた人々への支出は削減される。我が国の二大政党は、いずれもビッグマネーの恩恵を受け寡頭政治のルールの別バージョンを提供するばかりだ。
貧者と働く人々に再び活をいれるキング師に匹敵する論議を欠いていたため、右派のポピュリストたちが腐敗と経済成長刺激のための減税という政府のこっけいな主張を正当にも取り上げて時の勢いを得ることができた。右派が巻き起こしている脅威はキング師が語った4つの大惨事に対して惨事で応える反応であり、彼らが目指しているものに従えば大半のアメリカ人が最悪の状況に陥るだろう。
キング師は草場の陰で泣いている。彼は象徴と実質を混同することはなかった。肉体と血による犠牲を石とモルタルの殿堂とないまぜにすることはなかった。私たちを大変深く愛したキング師の実質と犠牲を私たちが祝すのは当然だ。彼が進んで引き受けたチャレンジを恐れて私たちはあまりにもしょっちゅう彼の象徴を祝ってすませてきたが、もうそれはやめにしよう。米国最大の作家ハーマン・メルビルは生涯米国を愛したが、「米国だけは例外」論の神話をもっとも痛烈に攻撃する批判者でもあった。彼の言葉にこんなのがある、「妥協することなく語られる真実の先端は、小ぎれいにおさまらないのが常だ。だから、そのような物語の結論は、建築的な仕上がりにいたらず未完に終わりがちだ」。
私たちの危機へのキング師の答えは、ひとつの言葉に置き換えられるだろう。それは「革命」だ。それは私たちの優先順位の革命、私たちの価値の再評価であり、私たちの市民生活、思考方法、生き方を根底的に転換して権力を寡頭政治と金権政治からの一般の人々、普通の市民へと移すように進めることだ。
具体的に言えば、バーモント州のバーナード・サンダース上院議員やロサンゼルス郡の監督官マーク・リドリートーマスのような進歩的な政治家を支援し、コミュニティとメディアを広範に組織化し、市民の不服従、権力との生死をかけた対決を支援するという意味だ。キング師のように、私たちも墓場にふさわしい黒っぽい服を着て、次の偉大な民主主義の闘いのために棺にはいる心構えをする必要がある。
©Hideko Otake

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